秒速センチメンタルで人は。っていう話
オチのない話をします。
オチはないけど、ほんのり後引く切ない話をします。
ハードルあげました。
この間、北海道の実家に帰った時の話です。
僕は結構母校という存在が好きな人間で、小学校も中学校も高校も、卒業してから頻繁に訪れるタイプです。
昔っから職員室が大好きで、何かと理由をつけて職員室に行っては、仲のいい先生とくっちゃべるのが好きな子供でした。
だから、卒業してからもわざわざ学校に行くんです。
さすがにもう小学校には行かなくなりましたが(そもそも知っている先生ももういないし、何より僕が卒業した次の年に改築されたので僕が知っている校舎ももうないからです笑)、中学校にはまだ何人か知っている先生がいるので、ハタチになった今でもちょくちょく行ってます。
で、この間帰省した時にも行ってきました。
夕方18時ごろ、授業なんかとっくに終わって、部活でさえも終わりそうな時間帯にふらっと寄ってみました。
校舎の裏のグラウンドで、もう白球なんて夕闇に紛れて見えなくなった野球部が体幹トレーニングをしていて、相変わらず顧問をやっている先生に会いました。
この先生は僕が中学校に入る前の年くらいに赴任してきた人で、多分もう9年か10年目になる先生です。
基本的にテキトーな人で、稚内にいたロシア人とウォッカを飲んで仲良くなった話とか、自分の家のラジオで北朝鮮の国営放送を拾った話とか(これだけ聞くとまるで共産圏のスパイである)そんな話ばっかりを授業中にするような人なんですが、意外に授業が分かりやすくてノリのいい先生でした。
隣のグラウンドではサッカー部が片付けを始めていて(ちなみに僕は小中高とサッカー部でした)、その様子を見ながら先生と話していたのですが、急にその先生が言うんです。
「そういえば今日〇〇が来てるよ」
〇〇って書きにくいし、読んでてなんの臨場感もないから星新一にならってエヌ氏ならぬエヌくんとでもしておきましょう。
なので
「そういえば今日エヌくんが来てるよ」
とこう言うんです。
エヌくんと僕は、昔ある時期とっても仲良しでした。
僕が小学校6年生の時で、エヌくんはその頃小学校小学校2年生でした。
僕の実家のある町は人口5000人を切り、緩やかに、しかし確実に少子化の進んでいるような田舎です。確か人口よりも飼っている牛の数の方が多いとかなんとか言ってたはずです。
そんな田舎なんですけど町内会というものは未だに機能してて。(というか人口の少ない田舎の方が町内会活動は活発なのかもしれません)
ただでさえ人もいないのにそれをさらに8つか9つかに分けて第何町内会やらなんたら地区やらってやって、夏祭りでは町内会ごとに行灯(あんどん、山車みたいなやつです)作ったり、町内会対抗の町内運動会やったり、その打ち上げで焼肉したり、町内会単位で旅行行ったりしてるんですね。
僕とそのエヌくんは町内会が同じで、この町内会は子供が少ないとこだったので自然と仲良くなったというか。
でまたその子は身体も小柄で顔も言うこともなんか可愛くて、小学校6年生なんて一番お兄さんぶりたい時期じゃないですか。
そういうこともあって仲良くなったんだと思うんですね。
町内会で行事とかがあったら遊んでたと思うし、学校の昼休みとかにもわざわざ2年生の教室まで行って遊んでたこともあったと思います。
僕には2つ下の妹がいてそれなりに仲良くやってると思ってるんですけど、昔から男兄弟に対する憧れみたいなのもあって、可愛い弟ができたくらいに思ってたんだと思うんです。
疎遠になったのは小学校卒業が近づいてきた頃だったと思います。
喧嘩したとか、何か特別な理由があった訳では全然なくて、年の差カップルさながらの自然消滅だったように思います。
いや、認めたくはないんだけれど、何か理由があったとするなら、多分僕が少しだけ、エヌくんのことを鬱陶しく思ったようにも思います。
小学校6年生と小学校2年生という年の差です。
32歳と36歳なら大して変わらないどちらもおっさんですが、小学校の4歳差って精神的にかなりの差があるじゃないですか。
精一杯の言い訳をするならそんなところです。
でも、でも、僕がエヌくんのことを避けたとか「もう遊べない」って言ったとかそういうことはなんにもなく、僕とエヌくんは疎遠になりました。
中学に入ってからも関わりはなく、高校は故郷を出て遠くの学校に下宿して通い、そして東京の大学に進学し、エヌくんとは交じることのないまま、ほとんど彼のことを思い出さずに生きてきました。
それが。
たまたま一週間だけ帰った北海道で、大学2年生になったハタチの僕と、高校1年生になった(おそらく15か16歳の)エヌくんが、同じ母校の中学校で会ったんです。
ボールも見えなくなるほどの夕闇ですから、あんまりよく彼の顔は見えなかったけれど、成長して大きくなっているとはいえあの頃とまったく変わらない小柄な身体で、あの頃より少しだけ大人になったけれど可愛い顔をしたエヌくんが僕の目の前に立っていました。
「久しぶり」とか「俺のこと覚えてる」とかそんなようなことを僕が言って、「久しぶりです」とか「覚えてます」とかそんなようなことをエヌくんが言ったんだと思いますが、正確なことはあまり覚えてません。
8年前、小学校2年生だった頃の面影をまだまだ残したエヌくんが敬語を使い、僕の知らない声を発したことに驚いたというか、ちょっとショックだったというか。
止まっていた時間の流れがいっぺんに突き刺さってくるなんて格好いい例えも思いつくほど、なんとも言えない感情になって、混乱しました。
きっと竜宮城から帰ってきて玉手箱を開けた浦島太郎はこんな感情だったんだと思います。
浦島太郎の心中をいま一番お察し出来るのは多分僕です。
それからどうやって別れたのかはまったく覚えていませんが、会話はしていないはずです。
エヌくんと会った次の日に北海道から戻ってきたのですが、それから何故だか、気がつくとエヌくんのことを考えています。
再会できた喜びとも、時間の流れを痛感した悲しみとも違うような、ありていに言ってしまえば切なさみたいな、何かが後を引いてるこの感じが一週間くらい続いています。
あの時僕がどうしたくて、彼にどうして欲しかったのかも分からんのですが、釈然としないこの感じを文字にしたかったというオチのない話でした。
あまりにオチがないので『君の名は。』を観てすっかり新海誠ワールドに染まった僕が、エヌくんについてここ一週間くらいずーっと考えてた話を最後に付け足して終わります。
『ねぇ、秒速5センチなんだって』
『え、なに?』
『桜の花の落ちるスピード。秒速5センチメートル』
新海誠監督『秒速5センチメートル』のセリフです。
初めて観た時は「はーんそうなんや」くらいにしか思ってなかったんですが、最近なんかおかしいなーと思って。
秒速5センチってね、言ったら1秒間にある物体が5センチメートル移動する速さのことじゃないですか(当たり前じゃないですか)
っていうことは1メートル移動するのに20秒かかるわけですよ。
「いやおっそ」ってなるじゃないですか。
だから本当は桜が散るスピードはどのくらいなんだろうと思って、調べてみたんですよ。
そうすると大学の教授がなんかが真面目に検証してる記事があって、そこには桜の花びらが落ちるスピードはだいたい秒速2メートルくらいだろうって書いてあって。
「いや速いはやい」ってなるじゃないですか。
でも実際それくらいなんですって。
秒速5センチだと流石に遅いけど、秒速2メートルは2メートルで速すぎるなあと、僕の感覚は言ってるんですよ。
じゃあ雨はどうなんだと。秒速8メートルくらいらしいんですよ。
なんかこれも速い気がしますよね。
じゃあ地球の自転するスピードはどうなのかと。時速1300キロメートルくらいらしいですね。
次元が違いすぎてよく分からないですけど、感覚的にはものすごい速いと思うわけですよ。僕は。
ということはですよ。
人は世界よりもちょっとだけ遅いスピードで生きてるんじゃないかと思うんですよ。
いや、ごめんなさい。
僕は、です。
あくまで僕が生きているスピードは「世界よりもちょっとだけ遅いくらい」と言えるんじゃないかと思ったりしたわけです。
それが秒速何センチで、時速何キロなのかは知らないですけど、そういう風に表せられるんじゃないかなーなんて、文系丸出しの頭は思っちゃうわけですよ。
エヌくんがいったいどれくらいの速さで生きているのかは僕には分からないですけど、惑星と彗星みたいなもんで周期があって、僕の生きている速さとエヌくんの生きている速さが上手いこと重なった時に、この間みたいにぱっと会うんじゃないかなんていうロマンチックなことを僕は考えたりしてます笑
タイミングですよ大事なのは。
僕が中学校に入ったあとエヌくんとまた遊びもしなかったのはあの頃の僕は多感な時期で、この間会った時に上手く喋れなかったのは高校生のエヌくんが多感な時期で。
惑星と彗星は最接近したんだけど、「いやー日本は昼間なんだよなあ。タイミング悪いなー」的な。
だけど、次にまたぱったり会える時はお互いが大人になっていて、4歳差とか疎遠になってからの年月とか関係なく、いいタイミングで会えるといいのかなと思うし、そうなるような気がします。
今度こそ夜に、綺麗な彗星が見られるといいなと思うんです。
おしまい。
ps 新海監督、映画化の話お待ちしています。